月夜見 
残夏のころ」その後 編

    “今年もよろしく”


今年は巳年で、金運にまつわる話も多く囁かれており、
長々と続く不景気を、
今年こそは払拭したいもんですな…なんて、
今年の政治とか世相とか経済とかを占うとかいう番組で
評論家だかエコノミストだか、
何だか偉そうなコメンテイターさんが他人事みたいに言ってたけれど、

 「とはいえ、給料が上がりでもしなけりゃ、
  お気楽に買い物へ繰り出すなんてなかなか出来なかろによ。」
 「いつぞやみたいに何とか給付金とか支給したらいいんじゃあ?」

単調なお声で返されたのへ、

 「あったよな〜、それ。」

うんうんと感慨深げに頷いたものの、

 「でも、それって貯金されたら意味ねぇじゃん。」
 「だったら地域商品券とかいう形で、
  買い物しなきゃってもので配ればいい。」
 「それだと加盟店募ったりって下準備が要るし、
  結果、使われねぇ恐れのほうが大きいぞ。」

さすがは地域密着の直売スーパーだけあって、
たまには真面目なお話もするらしい店長さんだったりするようで。
正月に財界人の放談番組あたりを観でもしたものか、
そっちの語彙のキャパシティが珍しく上がっておいでな模様…だったれど。

 「何かこうドーンとブームになるものが現れるとか。」
 「狙ってウケるってもんじゃねぇしな、そういうの。」

  サブカルチャー保護ってのも前々から言われてっけどな。
  それよそれ、何でまた日本の政治家はああも頭が固いかね。

 「世界中で鉄板レベルでウケてるジャンルで、
  しかも日本のクオリティがトップ張ってんのにな。」

ウダウダしてっと、
下請けで技術磨いた他の国に取って変わられんぞっての…と。
何だか段々と偏って来ておいでなのは、
お子様向けの菓子コーナーの
商品補充をしながらだからかもしれぬ。
小学生たち向けとされている シールつきのチョコ菓子や、
ミニフィギュアがついているラムネ菓子なぞが、
このところ何故だか高校生以上の女子の人に“大人買い”されており。
そのパッケージを見ながらだったもんだから、
ついついそういう話へよれてったものと思われたが、

 「…ちょっと前まで、
  ルフィもこういうの夢中で集めてやがったのによ。」

ブームだったってのあろうけど、
アイドルだの野球やサッカーの選手だのまつわりのブツより、
チョコやスナック菓子をやった方が嬉しそうだったしよ。

 「まだまだ色気より食い気かと思ってたら、
  おまけをコンプするのに夢中で。」

懐かしいなぁと目許を細めた赤毛のボスへ。
長い黒髪もクールな印象の副店長、
おやと表情を止めると、だが、ふっと苦笑をし、

 「…店長、床に直に座ってんじゃねぇよ。」

ほとんどが屋外にスペースを割かれた生鮮食品売り場と違い、
こちらは暖房も効いている店内だとはいえ、
Pタイルを敷いた足元はさすがに冷たく。
あらvvとにんまり笑ったお茶目な店長、

 「腰が冷えるってか?」

気ィ遣ってくれちゃってェと茶化したものの、
それへと返って来た応じはといや、

 「いんや、行儀が悪い。」

お顔は陳列棚へと向いたままという、
何とも すっぱりしたものだったそうな。(苦笑)




     ◇◇



大人のお喋りの肴にされていた、当のルフィ坊やはといやぁ。
確かにシャンクス叔父さんの言うとおり、
昔はいかにもお子様らしく、
食玩やカードシールを集めていた時期もあったらしいが。
子供会の世話役のおじさんに誘われて始めた柔道が楽しくなってしまい、
気がつけば、宝物を詰めたおもちゃ箱はほとんど手付かずとなっての、
道場通い優先の日々が始まって。
その時々の流行とかブームも知らないではなかったけれど、
テレビゲームやアニメもそういやあんまり詳しくはなかった証し、
懐かしの○○なんて話になっても、
時々“???”と目が点になってたりするところは、

 「それって俺と同んなじじゃないすか。」
 「お? ぞろもなんか?」

こちらは青果専用のバックヤードにて。
頼もしいくらいな大きい手での、大包丁を扱う手際も鮮やかに。
今朝収穫されたばっかという、
それは丸々と瑞々しいハクサイを、
次々とハーフタイプに切り分けていたのが
搬入班の期待の(?)若手、背高のっぽな剣道青年なら。

 「従兄弟のチビから、
  昔のゲームが今また流行ってるから攻略法とか教えてくれと。」

 「あー。そういうのって困るよなぁ。」

うんうんうんと、
感慨深げというか同情的というかで頷いたのが、
売り子部門の不動のアイドル、
青果ヤードのお天道さんこと ルフィさんで。
青物野菜を扱う場所なせいか、
ほぼ吹きっさらしの寒空の下であり。
双方とも作業着だけじゃあ足りないか、
マフラーやネックウォーマーを襟元から覗かせの、
下にはセーター着用か、
ちょっぴりという微妙さながらも着膨れしの。
ルフィに至ってはイアーマフまで装着という完全防備。
それでもお鼻を赤くして
さぶいさぶいと足踏みしているのが何とも稚く。

 「昔は すーふぁみ、今は ぷれすて? それとも ういぃ?」

単なる再燃のみならず、
発売から何周年とかいう復刻版が出ているゲームが結構あるそうでと。
まだ十代だろうに、昔は…なんてな話題で盛り上がっておいで。

 「先輩は そういうの得意そうに見えますが。」
 「物んの凄い古いのなら、何とか遊んだけどサ。」

FFとかサモン何とか、ポップン何とかいうのはさっぱりでと、
肩をすくめつつ業務用の太巻きラップをピピーッと広げて、
まな板の上の半分ハクサイたちを抱え込むルフィさんだったが、

 “うあ、なんか…。////////”

逃げやしない相手だってのに、
ゴロンと転げ掛かったのへと焦ったか、
えいやっと飛びついたのが、生け捕るようなカッコに見えて。
それがまた何ともかあいらしいなと思っちゃったゾロくん、

 「んん? どした?」
 「ああ、いやあの、何でも……
ないっす。//////」


  そろそろ隠し切れない何かしらが
  胸のうちに育ちつつあるようでございますvv




   〜Fine〜  2013.01.09.


  *マグロの初競りの話題から、何か書こうかなと思ってたんですが、

   ex, 食いしん坊のルフィさん、
     そんな高いマグロより、
     普通に美味いのをたっくさん食べたいよなぁと呟く…とか。

   こちらのお店は青果中心だったです。(迂闊…)
   ちなみに、関西では明日が“十日戎”の本宮で、
   あの“福男”を競う境内での駆けっこがあるのも明日の朝です。
   その“十日戎”では、
   毎年 賽銭箱前に立派なクロマグロが奉納され、
   参拝者はその冷たい皮表へ小銭を貼りつける習わしがあります。
   恵比須といえば…の鯛では小さすぎるからでしょうかね?
   賽銭を貼ってゆく習わしも何か不思議だなぁ。(笑)


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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